キツネがり

パナンペがいた。ペナンペがいた。

ある日、パナンペは腹がすいて、獲物をさがしに河原へおりていった。そして河原の石の上に死んだまねをして、長くねころんだ。
そこへ、ごそごそ林の中から現れたキツネども。

「パナンペが死んでるぞ」「かわいそうに、パナンペが死んだ」「このやわらかい肉して。どうして死んだ。かわいそうに」
パナンペの顔やからだをゆすぶっては、キツネどもはなきまわった。死んだまねをしたパナンペは、さわがしいやら、くすぐったいやらで、おかしくてしかたがない。
しばらくしがまんしていたが、からだの下にかくしておいたサケたたきのこん棒をにぎり、はね起きて、「何わっ」といって、キツネどもを打って打った。
十びきばかりのキツネがごろごろと倒れた。
大喜びのパナンペは、そのキツネどもを大きな荷物にして背負い、のめりそうなかつこうで家へ帰ってきた。

さっそく、皮をはいでみる。
なんとみごとな、キツネの肉だ。油のこい肉のかたまり。うまそうな肉だ。
それからというものは、大きな鍋をかけて、赤肉や白肉を毎日おいしく食べ続けていたパナンペだ。

そこへ、せきばらいしてペナンペがやってきた。
「エヘン、エヘン。おや?  おれと同じ貧乏で、ろくな物も食っていなかったおまえが、どうしてこんなすばらしい肉にありついたのだ」と聞いた。
パナンペはさっそく、「さあ、はいれよ。こいつを食いながら教えてやるから。まあ、ざっとこういうわけだ。そのとおりやって、おまえももうけろよ」と言った。心がねじれているペナンペは、
「ふん! うれ様のしようと思ってたことを先回りしてやったな。にくいパナンペ。悪いパナンペ!  おぼえてろ」と言って、戸口に小便をかけて逃げて行った。
パナンペはすっかり怒って、「なんとでも言うがいいさ。さぞうまくいくだろうよ」と言った。

それから、ペナンペはうまくキツネにありつこうと、河原におりると、死んだまねをして、あお向けになった。
ごそごそ、ごそごそ、キツネどもはたま林から出てきた。ペナンペのまわりをとり囲んだ。
「ペナンペ、死んでる。かわいそうに」「やわらかい肉して。かわいそうに、なぜ死んだ」と言いながら、わきの下やら首のあたりをかぎ回った。ペナンペはくすぐったいのをがまんしていた。
それでも、とうとうがまんできず、ほんの少し目を開けてのぞくと、かしらギツネに見つけられてしまった。

「一度あったことはこりごりだ。さがれ、さがれ、あぶないぞ」とさけんだので、キツネどもは後ろへ引いた。
「かわいそうなペナンペ」と、今度は遠巻きにして回り歩いた。
「何。なんだって! 」ペナンペはさけび、とび起き、こん棒を振り上げて打とうとすると、キツネども、
「せんだって、おれたちの仲間を殺したにくい人間の肉。やわらかい肉。今度はおれたちが食ってやろう。かじってやろう」
と言いながら、ペナンペにいっせいに飛び掛かり、かみついたりし始めた。ペナンペはひどく恐ろしくなり、大声で泣きわめいて家へ帰ってきた。
からだじょう血だらけのペナンペ、手足をばたばたさせて苦しがっていた。

そこへパナンペがやってきて、大笑いしながら言った。
「おやおやペナンペ、自分勝手をして、たいそうもうけたね」と、パナンペはそれからも、やっぱりしあわせに暮らし続けた。

ペナンペは、自分の悪かったことをくやみながら、苦しんで、つまらない死に方をしてしまった。
「これからのペナンペよ、人の言う事にさからってはいけない」と、ペナンペが言った。

知里真志保「アイヌ民譚集」より