山うばのおよめいり

ある川のそばの小さな村で、わたしはねえさんと暮らしていました。
ねえさんがある日、わたしに言いました。
「これ、妹や、火だねがほしいな。これから行って火だねをもらってきておくれ。東の方は広い道、西の方には草のおおわれた小道がある。けっして小道を通ってはいけないよ。かならず広い道を行くんだよ」
言われたとおり広い道を行きましたが、ふと気が付いてみると、いつのまにか草の茂った小道を歩いていました。
あわてて広い道に引き返しました。ところが、気が付いてみると、また小道を歩いているのです。
こうして、広い道を六回、草の小道を六回歩きました。
もうすっかり疲れてしまいました。ふと見ると一軒のカヤの家がありました。冬がこいが六重にめぐらしてありました。
家には一人の貧しい山うばがいました。
「これ、何をしに来たのだ」
「ねえさんが火だねをもらってこいというから来たのです」
山うばは、着物のすそを少し切り、その上に灰を入れ、その上に火をのせました。
「これ、娘や。おまえは帰る途中、灰を少しずつこぼしながらゆくんだよ」
わたしは灰をこぼしながら帰りました。

家の前にねえさんが立っていて、わたしをひどく叱りました。
「どうして、あんな化け物ばばの家に行ったの? むかしからわたしたちの先祖を次々に殺した化け物なんだよ。わたしたちのところがわかったら、ろくなことはないわ」
次の朝、戸を開けて山うばが入ってきました。
「おまえたちがこんなに大きくなったとは、ちっとも知らなかった」
ねえさんはしかたなしに、山うばに食事を出してやりました。食事がすむと、
「わしのシラミをとっておくれ」
ねえさんはすごく怒りましたが、山うばの頭から、大きなシラミをとりました。
「さあ、今度はおまえのシラミをとってやろう」
「わたしにはシラミなんかいないよ」
山うばは、むりやりねえさんを座らせて、頭から一匹シラミをとりました。
そして、ねえさんに言いました。
「舌をお出し」
といって、ねえさんが舌を出すと、そこへイラミをおくふりをして、こっそり太い針を出し、それでねえさんの舌を突き刺して、殺してしまいました。
山うばは、自分の着物と、ねえさんの着物をとりかえ、わたしの着物もはぎとって、わたしにはぼろを着せ、貝がらで食事をさせました。
わたしは毎日ねえさんのことを思い出して泣いていました。

ある日、二人の若者が船を漕いでやってきました。
山うばは、ねえさんのふりをして、上座にござをしきました。若者は肉を持ってきました。その肉を煮てみんなで食べました。年下の若者は、うまそうな肉をわたしに食べさせてくれました。
山うばは、「そんなむすめに、そんないい肉を食べさせなくてもいいよ」と、怒りました。若者は、「自分のめし使いにも、おいしい食事をさせるもんだよ」と言いました。

あくる朝、みんな船にのりました。年下の若者はわたしの手をとって、船にのせてくれました。「そんなむすめは、おいていけ」と、山うばは言いましたが、若者は、「こんなところへ、おいてゆけるか」と言いました。
それから船を漕ぎ、ある村に着きました。その村の女の子たちが、たくさん集まっていました。
「とのさまのおよめさんが、ここをお通りになるのだ」と言いながら、きれいなござをしいて待っていました。
山うばは、その上を歩いていきましたが、船よいのために、きたない物をもらしてしまいました。
村のむすめたちは、「きたない! きたない! 」と言いながら、せっかく敷いた美しいござをたたんでしまいました。

みんなわたしをおいて行ってしまいました。わたしは草原へ行って泣いていました。すると、そこへ一人のむすめが来て、わたしを一軒の家へ連れていってくれました。そこには年下の若者もいました。
その晩は、そこに泊まりましたが、夜中に用を足そうとして、少し遠くへ行きがけると、わたしに抱きついたものがありました。
よく見ると、殺されたねえさんでした。
ねえさんは、わたしに小袖を何枚も着せ、金のかざり帯をしめさせ、その上にぼろの着物を着せました。

次の日、およめさんの踊りがあるからといって、人々はある家に呼ばれました。山うばはむすめみたいになって、およめさんに化けていたのです。山うばはわたしにむかって、
「そこのむすめ、おまえ、まず踊れ」と言いましたから、上のぼろを投げ捨てて踊りました。
わたしの手からは、いろいろなものが雨と降りました。村の男女は、拍手喝さいをしました。
今度はおよめさんの番です。山うばの化け物ばばが立って踊りました。
山うばの手からは、大きなカエル、トカゲ、大きなヘビ、小さなヘビがぞろぞろと降りました。
その村の男や女たちはびっくりして、
「これは山うばだ。よめのようなふりをしていたのだ」
山うばの化け物ばばは、切り刻まれ、あっちこっちに投げ捨てられました。
わたしは年下の若者のおよめさんになりました。