マメ一つぶ

ある田舎に、じいさんとばあさんがいたんだよ。物をだいじにする人たちでね、米つぶでも、マメ一つぶでも、「もったいない、仏様からのいただき物だ」と言ってね、粗末にしなかったんですと。
ある時、じいさんが庭を掃いていたら、どこからかマメが一つぶ転がってきたのでね、「おや、もったいない。拾っておこう」と思って手をのばしたら、マメはそのまま転がって、ネズミの穴に入ってしまったと。
じいさんは、もったいない、もったいないと思いながら、そのネズミの穴をよいしょよいしょと掘っていったんだよ。そしたら、ひろーい所に出てしまってね、マメは見つからないけど、そこにはお地蔵さんが立っていたんですと。

そこで、じいさん、
「お地蔵さん、お地蔵さん、今ここにマメ一つぶ転がってこんかったかね」と聞いたらね、
「わしゃ見んぞ」と言うんだと。
「そんなはずはないんだがなあ。うちのマメがこの穴に転がったんで、わしは一生懸命に掘ってきたんじゃがな」と、じいさんが困ってると、お地蔵さんは、
「そんなに言うんなら、そこらを探してごらん。それでもなかったら、わたしのひざの上さ上がって、もっとよく見てごらん」と言ってくれた。
じいさんは、
「お地蔵さんのひざの上に上がるなんて、そんなもったいないことできねえ」と、遠慮したけど、お地蔵さんにすすめられて、ひざの上に上がったと。

「見えたか」
「いや、見つからなね」
「それじゃ、もっと遠くを見るために、わたしの肩の上さ上がってごらん」
「いやいや、もったいなくて、そんなところに上がれねえ」
と、じいさんは遠慮したけど、お地蔵さんにすすめられて、肩の上に上がったと。
「見えたか」
「いや、どうも見つからね」
「変だな。それじゃ、わたしの頭の上さ上がってごらん」
「いや、いや、ひざの上や肩の上でももったいないのに、頭の上なぞ上がるわけにはいかねえ」と、じいさんが遠慮したら、
「そんなこと言わないで、上がってごらん」
「そんじゃ、ごめんないさいね。上がらせてもらいます」と、じいさんはお地蔵さんの頭の上からぐるーっとまわりを見渡しましたと。
「見えたか」
「へいへい、マメは見えんけど、そこの山の下で鬼みたいのがサイコロふって博打を打っているのが見えました」
「そうか、そうか。それじゃ、わたしがよいときに合図をするから、そこにある(マメをごみとふるい分ける、竹であんだ道具)と竹を持っていなさい。
箕の背中をポンポンと竹でたたくと、バサバサッて羽の音がするから、そのとき、いっしょにコケコッコーと鳴きまねをするんだよ。一番ドリ、二番ドリ、三番ドリまで鳴くと、鬼どもは夜が明けたと思ってみな逃げ出すから、あとに残った金や宝物は、じいさんが全部もらって帰りなさい。それは今までじいさんとばあさんがマメ一つぶでも大事にしてきたほうびだよ」
と、お地蔵さんが話したと。

そして、じいさんはお地蔵さんの合図のたびに、箕を竹でたたいては、
「バサバサ、バサッ、コケコッコー」
と三回やったので、鬼どもは、
「そらっ、たいへんだ。夜が明けるぞっ。急いで帰るぞっ。ばくちはやめだーっ」と、あわてて逃げて行ったんだと。そのあとには、ばくちに使った金がたくさんたらかっていた。じいさんはそれを全部拾ってしまうと、
「お地蔵さん、ありがとうございます」と、お礼を言って帰ったんですと。