大人はキツネにだまされる

むかしはな、どこの家でも、おも家と便所がはなれて、べつべつに建っていたものだ。便所が離れているのは、臭くなくていいどもな、夜、下駄はいて、外へ出て、ぽつんと建っている便所へ行くのが、おっかなくておっかなくて。そこで、ついつい、しょんべんをじーっとこらえる。
そのうち、とうとうこらえかねて、ふとんの上にやってしもうてな、朝、おっかあに、まきで頭やけっつをぶん殴られたもんだ。

この便所へ行った帰りにな、みんなよっくキツネにだまされて、とんでもねえほうさ連れていかれるんだ。かどのじっちゃは騙されやすくて、まあまあ人騒がせばしたもんだ。
ともかくな、朝起きたら、じっちゃがいねんだと。家のもんはびっくりするべな。近所聞いてもいねっし。そこで手分けしてあっちこっち探したら、なんとはあ、着物ばすっかりぬいでしまって、ふんどしいっちょうになって、草の上ばはいずりまわっていたんだと。
「何してんだ、じっちゃー」って言ったら、「ほらほら、おっきたノミがはねてるべー」って言うんだと。

霜くるようになってからでも一ぺん、こやしつぼさ入って、ふんどしで顔ば洗って、「いい湯っこだでばー」って、鼻歌ば歌ってたことがあったと。
こやしつぼだば、たしかにあったけえかも知んねえな。あれ、はっこうばしてるべもの。

別家のおどちゃも一回あったんだと。
サルガニ(ザルガニ)ばいっぱいとって、石の上さならべて、ぺこぺこ頭ば下げているすけ、「どうしたんだ」ってどなったらば、道に迷って困っていたら、キツネが、助けてやるからサルガニとってこいって言ったって。

子どもがだまされたって話ばあんまり聞かねども、キツネってもんは、大人ばだまかすほうがおもしれえだべもんな。