登別温泉のぼりべつおんせんかみ

白老しらおいから西の方、登別温泉のクッタラ湖岸の山に、時々不思議な火を見ること

白老町・クッタラ湖

があった。この火のことを神の火(カムイラッチャク)といって、悪い病気が流行はやるとき、村人に知らせる神のおげといわれている。

神のお告げがあると、村の老人たちは、酋長の家に集まり相談をして、村人に知らせ、また、登別岳の神に穀物や魚などを供え病魔の入ってこないように、特別の木幣いなうを作って祈願をした。

その昔、この登別には、世にもまれな美しい娘が生まれ、両親はこの娘をこの上なく愛し育てた。ところが、七つ八つ頃から頭に悪性の吹き出物ができはじめ、年々ひどくなり頭から顔にまで広がってしまった。あらゆる手当をしたが一層ひどくなるばかりであった。
両親は必死に神に祈願したがなおらず、美しい顔は二目ふためと見られぬ顔になってしまった。
そして、娘が十八になったある日突然、娘は姿をかくしてしまった。
両親を始め部落の人々も探し、探し廻ったが全然行方がわからなかった。
村人は、自分の醜い顔になげき悲しんで身を隠したのだろうと噂した。

登別市・大湯沼

しかし、これは神様の始めからの考えでされたことで、娘は病気でもなんでもなく、あまり美しい故人間にけがされてしまうのを恐れてみにくい顔にして娘を守り、年頃になったので神の国へ呼び寄せられたのだった。

この神の子の娘は、神の国へもどり女神になり、六人の娘を産んだ。
そのうちの長女を昔人間界で村人に醜い娘として、苦労したことを思って登別温泉のまもり神として送り込まれ、病気になって困っている人々を助け、いやす神様にされたという。
それから登別温泉は、女神が腫物はれもので苦しんだこともあって、特に皮膚病によく効く温泉となったという。

更科源蔵 アイヌ伝説より