材木岩のいわれ -羅臼ー

羅臼に来た弁慶は、羅臼と国後島を結ぶ橋を架ける決心をしました。
順調に進んでいた大事業でしたが、村長の娘と恋仲になり、工事は滞りがちになってしまいます。 それを見た神様が怒ってしまい、橋に使うための木材を石に変えてしまったのです。
実際に、国後島にも同じような地形があるとの記録も残っています。

ある日、羅臼にやってきたシャマイクル(弁慶のこと)は、すぐ向かいに見える大きな島、クナシリ島に行ってみたいと思いました。
しかし、島ですから、船でになれば行かれません。そこでシャマイケルは、

「よし、ひとつ、橋を架けてやろう」

と、思いました。
シャマイケルは、さっそく山へ行って、どんどん木を切って集めました。何せ、背が高く太っていて力持ちですから、一度に、8本も10本も、担いでくるのです。

アイヌの人たちは、シャマイケルの話を聞いて、はじめは気ちがいかと思いましたが、せっせせっせと、材木を運ぶシャマイケルの姿を見ていると、だんだん、本当に思われてきました。

向かいの、あのクナシリまで歩いていけたら、どんなに素晴らしいだろう。クナシリは宝の島だ。コンブも魚も、有り余るほどある・・・。
そうだ、我々も手伝おうと、シャマイケルを手伝う者が現れ、その数も、だんだん多くなっていきました。

若い女の子たちは、男らしいシャマイケルにあこがれ、そばを離れたがりませんでした。
中でも、酋長の娘は、シャマイケルに夢中でした。せっせと、ご飯の支度をしたり、弁当を運んだり、シャマイケルの行く海へも山へも、ついて歩きました。
娘は、大きな黒い目をした美人でした。

娘の気持ちを知った父の酋長は、びっくりしました。
アイヌの娘は、アイヌ以外の人のところには、お嫁に行けない決まりがあったからです。

父は、この掟をおかすと、不幸がやってくること、村のみんなにも迷惑がかかることを、こんこんと娘に話しました。
娘は、父のいうことがよくわかるのです。しかし、シャマイケルをあきらめることができませんでした。

シャマイケルも娘が好きでしたが、この橋を完成させねばと、念仏を唱えながら、娘の愛を退けていたのです。
しかし、娘の恋の炎は、とうとうシャマイケルの心に火をつけ、愛を受け入れさせてしまったのでした。

海岸には、材木の山が次々に積み上げられ、いよいよ、今日からは橋の工事をはじめるという、その日の朝のことでした。
張り切って集まってきた村のみんなは、材木の山を見て、びっくりぎょうてん、

「や、ゃ、や。こりゃ、いったい、どうしたことじゃ。材木が、みんな、石になっとるでえ」

そのとおりです。ひと晩のうちに、材木がみんな、石に変わってしまったのです。やはり、カムイ(神)の罰だったのでしょうか・・・・・。

石になった材木は、いまでもそのままです。