ばけものとチョウザメのかくとう

昔々の大むかし、今の、神居古潭かむいこたん(旭川市)は、石狩川の河口であったんだと。
そしたら、ある日、日本海を泳いでいた大きな大きな魚が二ひき、何を思ったのか、この神居古潭の河口に、ゆっくりゆっくり入ってきたんだと。
その魚のかっこうったらまあ、鼻から口にかけてはな、まるで、カラスの口ばしみたいに長く、鋭く突き出てるんだと!。
そしてな、この魚のうろこったら、すごく硬くてな、その形がまた、一枚、一枚、チョウチョウの羽みたいなんだと。

そこでな、この魚を見つけた村のものたちは、この魚にチョウザメという名まえをつけたんだと。
頭のかっこつきが、サメにばちょっと似てたこのチョウザメはな、川の水の静かなきれいな所で、子どもば産みたかったんだべものな。

村のものは、チョウチョウがいっぱいとまっているみたいな不思議な魚は、きっと川の神様か、水の神様にちがいないと思ったんだな。そして、シャメカムイ、シャメカムイ、と呼んで尊敬するようにばなったんだと。

ところで、この神居古潭の奥にな、鬼みたいな化け物が住んでいてな、山ばどしどしかけめぐって、村のもんがたいせつにしているものを、かってにとったり、つぶしたりしてしまうんだと。
やっつけたいんだども、なんせ相手は鬼みていな化け物だもんで、ちょっと手出しができなかったんだと。

ある日、この化け物が急にあばれだし、クマでもシカでも人間でも、手当たりしだい、踏み殺したり、にぎりつぶしたり、そりゃもう、神居古潭の生き物はもう、この世の終わりかと思ったと。

化け物は、川にもザブザブ入ったもんで、ちょうど寝ていたチョウザメを踏んづけたんだと。
チョウザメは目ばさまして、化け物に、「あやまれ」っていったと。
化け物は、あやまるはずがねえもんな。それでな、大格闘になったと。
なんせふたりとも大物だべ。ドシンとぶつかると、あっちの山が崩れるべし、バシッと尾っぽがぶつかれば、こっちの崖が崩れるべし、んだもんで、川は、はあ、その崖の切れっばしや山のかけらでいっぱいになって、海さ、わんさと流れていったと。

大格闘は、二日たっても三日たってもまだ勝負がつかないもんで、その間じゅう、崖が崩され、かたまりになって、どんどこどんどこ、海さ流れたんだと。
ところがな、流された山のかけらがよ、波で、また岸さよってくるべ。
んだもんで、古潭の河口はよ、次から次へとよってきた。この崖のかけらだの、山のかけらだので、いっぱいになってしまってな、ずーっと、見わたすかぎり平らになっちまったんだと。これが石狩平野なんだと。

したからな、今みたいに神居古潭が、ずーっと海から離れてしまったんだとぉ。

石狩平野

美深町の旅(チョウザメ館)