力持ち又右衛門またえもん

むかしの話だと。北海道の南のはしに、恵山というところがあるべさ。
今は道立自然公園になっておるところだべし。
その恵山になあ。むかし三好又右衛門という若者がすんでおったと。
なんだか強そうな名前だべ。
又右衛門は、毎日山から硫黄をとって、かせいでいたんだと。

ある晩のことだと。
又右衛門の夢くまらになあ。恵山権現さまがお立ちになって、
「これ、又右衛門や、おまえに強い力をさずけてつかわすぞ、村人にその力でつくすのだぞ、よいかなあ」と言ったかと思うと、ぱあっと姿を消してしまったと。

目をさました又右衛門は、変な夢を見たなあと思いながら、岩の間からわき出てている温泉に入ったと。
手ぬぐいをぎゅうとしぼったら、なんと不思議なことに、手ぬぐいが二つにちぎれてしまったと。
又右衛門は、びっくりしてしまったと。
「こりゃ、どうしたことだべ。おらにこんな力なんかなかつたのになあそうしているうちに、からだじゅうがむずむずしてきて、力がわいてくるではないか。
ためしに、硫黄をつめたカマスを持ったら、かるがると持ち上がったんだと。
一俵のカマスに十二貫(約四五㎏)も入った硫黄を、いっぺんに五俵もかついで、恵山の火口から村までおりてきた又右衛門を見て、村の人たちはびっくりしたと。
「ありゃ、りゃりゃ、又右衛門のやつ、カマスを五俵もいっぺんにかつぐとは」

それからというもの、又右衛門はそんなうわさはあまり耳に入らんようで、毎日毎日山からカマスを五俵ずつかついでは、村へおりてきたんだと。おかげで、村の人たちは硫黄のことは、又右衛門にまかせてしまい、ずいぶん助かったと。

それだけではないんだと。
海に出た船が、夕方沖から帰ってくるべさ。すると、みんなで船を浜辺へひっぱり上げるべえ。又右エ門は、夕方沖から帰ってきた船を見ると、たったひとりで、船を浜辺へひっぴり上げてしまったのだと。

村の人たちは、二度びっくりしたと。
それからというもの、村の人たちは三好又右衛門を、力持ち又右衛門とよぶようになったと。

※ カマス=わらかどで編んだむしろを二つ折にして袋にしたもの。

函館市の旅(旧恵山町)