家宝のハラワン

暮れもおしせまって、借金の取りたてがきびしくなってくると、ふだんのらりくらりの繁次郎もだんだん心配になってきた。

ことに、「おれの家には先祖から伝わった宝物-家宝ーがあるから、いくら借りてもだいじょうぶだ。心配するな」と、けむにまいていただけに、どうやって借金取りを追い払うかと四苦八苦。
首をひねっ考えたすえ、ポンと手をうって、

「これは迷案、名案」

さて大晦日。ふだんえらそうな口をきいている繁次郎を、今日こそとっちめてやろうと、のりこんだ借金取り、

「繁次郎、いるか」と戸をあけると、頭にはちまきをし、着物の前をひろげて、腹をつき出して繁次郎がすわっている。
よく見るとへその上におわんを一つのっけているではないか。
「借金はどうしてくれる。家宝はどこだ」とさけぶと、

「これだ、これだよ」という。
「これとはなんだ」と聞くと、

「これ、腹の上のわん。ハラワン、ハラワン。借金はハラワンという家宝だ」

矢代旅館祖母伝 文・梁瀬伊兵衛