穂別の人喰刀イペタム -旧穂別町ー

イペタム(アイヌ語)は、アイヌ伝説にある妖刀のことです。エペタムと表記されることもあります。

胆振管内

昔々、今の鵡川町穂別の近くに、ペップトコタンという村があったということです。その村は、とても平和に暮らしておりました。まわりの村が盗賊の群れに荒らされても、この村だけは無事だったのです。
ここには、酋長の家に妖剣イペタムという人食い刀が秘蔵されており、村人たちはこの刀のお陰で守られていたそうです。

「あの人喰刀さまがあれば、この村は、絶対安心さ」

村の人はたちは、そう、心の底から信じきっていました。

イペタムは、村に盗賊などが攻め込むようなことがありますと、ひとりでに鞘から抜け出してはひらりと宙を舞い、あっという間に敵を倒してしまうという魔力を秘めた刀でありました。

この刀が村にあるお陰で、盗賊が攻め込むようなことがあっても刀に守られ、またその刀の恐ろしさから、村にい攻め入る者は段々と減っていきました。

村に住む人々は、この刀があれば盗賊を恐れることもないと何の憂いもなく、幸せに暮らしておりました。

しかし、イペタムは妖刀です。
あまりに人を斬ることがないと、血に飢えて暴れ出してしまうのです。

そして、それを止める方法を知る者はこの村ではただ一人、長老しかいませんでした。

もしも長老が死んでしまったら、この刀が暴れるのを止められる者は誰ひとりとしていません。
この刀が暴れ出したらどんなに危険なことになるかと村の老人達は心配し、相談の末に刀を捨ててしまうことにしました。

しかしイペタムは魔剣です。
山に捨てても、川に捨てても、捨てに行った人が村に帰り着く前に村へと戻ってきてしまいます。
そこで困った村人は、散々色々なことを試した末に、底なしの泥沼に捨ててしまいました。
何をどうしても戻ってきていた魔剣はそこに捨てた日から、戻ってくることはありませんでした。

ところが、それを知ってか、はたまた偶然か、それからまもなくして村は盗賊に襲われたのです。
村人は魔剣を捨ててしまったことを悔いました。
しかしどんなに悔いても後の祭り。
盗賊の群はどんどんどんどん村へと押し寄せてきます。

そこである賢い老人が、柄のゆるんだ鉈を振り回しました。
それはガタガタガタガタと今にも魔剣が暴れるような音がしたそうです。
この音を聞いた途端、盗賊達は魔剣が暴れだしたものと思い込み、あまりの恐ろしさから逃げ出していったということです。

そうして、村にはまた平和が戻りました。

(ベップトコタンという村は現在の胆振支庁、鵡川町穂別の中学校の近辺にあったということです。
また、その妖刀イペタムを捨てたという底なし沼は、明治31年の洪水で埋まってしまい、現在はなくなってしまいました)