積丹半島の西の付け根、岩内町。
その西のはずれに、ニセコ連峰の山の塊が断崖となって日本海に落ち込んだ雷電海岸があります。
かつて、国道229号は雷電海岸の刀掛岬(義経伝説)で陸路をはばまれ、先に行くには海路を利用するか、朝日温泉経由で山越えをするかのどちらかでした。

朝日温泉露天

明治時代には朝日温泉に駅逓があり、大変賑わったといわれています。
しかし、北海道屈指のこの秘湯を知る人は多くはありません。

2006年の秋、日帰り入浴で訪れました。
奇岩・怪岩が並ぶ国道の海岸通から雷電峠の山道を4kmほど入った山の中に現代文明から隔絶された一軒宿の朝日温泉がありました。
デコボコの山道で案内板が無ければあきらめるほどの山の中でした。

創業は江戸末期の弘化元年(1844年)

あばら家ですが、映画「飢餓海峡」の舞台にもなった歴史ある建物です。
電気(自家発電)、テレビ、携帯電話も通じない宿ですが、野趣あふれる露天ぶろ、森のしじまと川のせせらぎ、夜ともなればおそらく星空が都会では味わえないでしょう。
玄関を入り控室には「飢餓海峡」の本が開いて置いてありました。
この旅館は秘境を愛するマニアックな人たちで運営されてきたようで、先客は「毎年来ている」と話していました。

朝日温泉が秘湯といわれる由縁

朝日温泉には昔の趣のままに残されている露天風呂があります。
内湯は建物にありますが、露天風呂は数十メートル離れた場所にあるのです。
行き方は外から敷地を通るのと、浴室の扉を開けて裸で行く方法ですが、いずれも丸太を組んだ橋を渡ることになります。
雨でも降っていると、川に滑り落ちるかもしれません。この川は急流で恐る恐る鉄パイプを伝わって渡ります。
そうして、辿り着くと野趣あふれる露天があります。
岩間から自然湧出する天然温泉です。岩場で服を脱ぎ、硫黄臭のたちこめる露天風呂に身を沈めると、目の前の渓流も、森もがすべて自分のものになった気がしました。