田宮虎彦「木の実のとき」ー洞爺湖町
田宮 虎彦(たみや とらひこ) 1911年 – 1988年 小説家。
東京生まれ、神戸市に育つ。船員である父親の都合で転居を繰り返し、兵庫県立第一神戸中学校から第三高等学校、1936年(昭和11)東京帝国大学国文科卒業。在学中より『日歴』『人民文庫』に参加。創作に励むこと十年、自己の鉱脈を発見したのが、会津(あいづ)士族の数奇な運命を描いた『霧の中』(1947)であり、ついで戊辰の戦と太平洋戦争を表裏にもった『落城』(1949)連作や、戦国時代を描く『鷺(さぎ)』(1950)などの歴史小説。
昭和10年代前後の暗い青春時代を扱った『足摺岬(あしずりみさき)』(1949)や『菊坂』『絵本』(ともに1950)などの半自伝風のものなどがあります。
「木の実のとき」は室蘭に住む父を追ってきた順太郎が父に伴われて洞爺湖に遊ぶ様子が描かれています。今は、洞爺湖に行くには車でどこからでも行けますが、当時は鉄道で虻田(現在の洞爺駅)が玄関口でした。
「二人は、母恋の駅から汽車に乗った。虻田の駅でバスに乗り換え、立派に完全舗装された国道をのぼっていくと、その上り勾配のつきたところで、夢の中で見る景色のように美しい洞爺湖が、眼の下にひろがって見えた。
富士山のままといってよいような羊蹄山が、湖の遠くにうかんで見えた」