パナンペ・ペナンペ話 (海の水を飲みほす)

パナンペがいた。ペナンペがいた。
パナンペはきじめな働き者で、やさしい心を持っていた。ペナンペはなまけ者、ひがみやで、意地悪い男だった。なんとかパナンペをとっちめて、ツグナイ(悪かったとわびるしるしに品物をさし出すひと)を取り上げようとした。
だが、何度からんでみても、そのたびにパナンペに言い負かされて、すごすご引き上げるのだった。

ある日、ペナンペは、
「今度こそパナンペをやっつけよう」と考えた。ようやくうまい問題を思いついたので、パナンペを海辺に呼び出した。
「何か用かね、ペナンペ」
「よく来てくれたな、パナンペ。実は、おまえにこの海の水を飲みほしてもらいたいのだよ」
ペナンペは、パナンペのやつ今度こそは「それはかんべんしてくれ」とあやまるだろうと、腹の中でほくそえんで言った。けれどもパナンペは少しも驚かず、にこにこして答えた。

「ああ、いいともペナンペ。海の水だけならすぐでも飲みほしてやろう。けれど、あそこの川からも向こうの川からも、川の水がたえまなく流れてくるのが困る。おまえが前もって川の水を全部せきとめて、一滴も海に流れこまないようにしておくれ。そうしたらおれも海の水をすっかり飲みほしてあげよう」
これを聞いたペナンペは困ってしまった。

「そんなこと、おれにはできない。おくえに無理なことを言ってすまなかった。もう二度としないから許してくれ」
と、パナンペにツグナイを出してあやまって、それから後は、心のよい人になったとさ。

知里真志保「アイヌの散文物語」より