黄金のびん―夕張市ー

7月も終わりに近いある日のこと、夕張の町を、一人の老人が一本のびんを片手に下げて歩いていました。この老人の名前を仙次郎といいました。
仙次郎は、昼が近くなったので、おにぎり屋を探しているのでした。しばらくして、一軒のおにぎり屋を見つけたので、のれんをくぐって入っていきました。

店の中では、この店の主人らしい人が、おにぎりをにぎっていました。はん台の側に座った仙次郎は、側にびんを置くと、腰からたばこを取り出して、たばこをキセルに詰めながら、

「ウメ三つ、焼いてくれ」

といいました。
主人は手際よくめしの中にウメを入れると、ひとつひとつにノリを巻いて、網わたしの上にあげて焼きました。

しぱらくたって、焼きあがったおにぎりをお盆に乗せ、たくあん、お茶と一緒に持ってきました。
仙次郎は首に巻いた手ぬぐいを外すと、額の汗を拭きながら、にぎりめしを手にして、一口、二口と食べ、茶をゴクリと飲みました。
ちょうどその時、一人のお客さんが入ってきました。うす暗かった店の中に、入口から光が入ってきました。そして、不思議なことに、店が急に明るくなりました。はん台の側に置いておいたびんから光が出てきたのです。
これを見た店の主人とお客さんは、同じようにびんを見つめました。しばらく見ていましたが、やがて、店の主人が仙次郎に、

「じいさん、このびんの中に何が入っているんだい。さっき、変な光を出したようだが」

といいました。

「なに、この辺にあるものを詰めてあるだけさ。驚くほどのものでないし、危険なものでもないから安心しな」

といいながら、仙次郎はにぎりめしを食べていました。

でも、気になるのか、主人は仕事をしながら、ちらっ、ちらっと、びんを見るのでした。
にぎりめしを食べ終わると、仙次郎は、お金を払い、びんを片手に下げて見せ店を出ていきました。
二、三軒、店に寄って買い物をしているうちに、夕方近くになりました。もうそろそろ紅葉山に帰らなければと思って、町を歩いていると、一人のおまわりさんに会いました。おまわりさんは、

「おじいさん、あんたの持っているものは、なんだね。ちょっと見せてくれないか」

といいました。

「いや、何でもありません。危険なものでもありません。川から拾い上げたものだから」

と、仙次郎はいいました。この話を聞いて、おまわりさんは一層不思議に思いました。

「川から拾ったものを、どうして、びんの中なぞに入れるんだい。ちょっと、そこまできてくれ」

といいました。仙次郎は、言われるままにおまわりさんの後についていきました。やかて、おまわりさんの家に着くと、

「その持っているものを見せなさい。一応、確かめるから」

と言われました。仙次郎は、仕方がないと思い、素直にびんを差し出しました。おまわりさんはびんを受け取ると、びんの蓋を取り、逆さまにして、びんの中身を机の上に出しました。中から出てきた物が光に当たると、ぴかぴかと光りました。
その光った物は、小さな砂粒のようなものもあれば、アズキのような物もありました。

「これはなんだ」

と、おまわりさんが聞きました。

「はい、これは砂金といって、夕張川で取れたものです。清水沢、紅葉山のあたりでは、特に良く取れます。そこで、取れたものをこうしてびんに詰めては、買ってくれる人を探しているのですが、中々買ってもらえません」

と、仙次郎はいいました。

「何、これが砂金か。たいしたものだ。こんな大切なものを、ただ、びんに入れて持って歩いて、盗まれでもしたら大変だ。気をつけて帰りなさい」

と、おまわりさんはいいました。
仙次郎は、何度も何度も、頭を下げて、おまわりさんの家を出ました。

この話が町中に広まると、人びとは、

「紅葉山の仙次郎さんは、いつも、びんに砂金を詰めて売って歩いているんだと。その金は、とても我々が買える金ではないそうだ。仙次郎は、きっと夕張一の金持ちになるぞ」

というのでした。
しかし、その後、砂金は、だんだんと取れなくなりました。
川の流れをとめてといに流し、このといに、砂金を含んだどしゃを流して洗い出し、砂金を取る法や、川底のどしゃを、みのようなものに入れて水を通し、残ったものを選んで砂金を取る法など、いろいろな方法で見つけていました。

今でも、このころの話を聞いて、砂金を探し歩いている人もいるそうです。