愛しい女・三浦哲郎ー積丹町
「忍ぶ川」で芥川賞を受賞した三浦哲郎の小説「愛しい女」で、若い二人が札幌から小樽を経てジープで積丹半島へ向かいます。
やがて神威岬の付け根のところにある土産物屋を兼ねた食堂でジープを降り、岩鼻をめぐる小道を歩いていった。
「岩鼻を廻ると、そこで道がなくなり、右手は海、左手は断崖絶壁で、その断崖絶壁の裾に、ごつごつとした岩浜が遥か遠くまでつづいていた。」
ようやく断崖のあたりに、トンネルが黒い口を開けているのがみえた。念仏トンネルである。留美は懐中電灯をうしろ手に持つと、先にトンネルのなかへ入った。荒削りで天井が低く、洞窟にでも入っていくような気がする。やがてトンネルが鉤の手に折れると、あたりは全くの暗闇になった。
「トンネルを抜けると、目の前が茜色の陽が砕けている入海で、そのむこうに、左手から弓なりに海へ突き出ている神威岬と、その前方の岩礁地帯に石地蔵のように立っているメノコ岩とが、黒々とみえていた。夕陽は、ちょうどそのメノコ岩の真上に落ちかかっていて、遥かむこうの水平線には、いつのまに湧いたのか茜色の雲が低く横たわっていた」
土産物屋を兼ねた食堂は現在もあります。この食堂の脇に海岸に降りていく小道があり、念仏トンネルまで石ころの浜辺を歩いていきます。
ただし、今は念仏トンネルは危険であるため止められていますが、自己責任で入っていく人がいるようです。
私は40年ほど前に、この小説と同じ状況でトンネルに入り、出ると息をのむ絶景を拝みました。