石北峠ー北見市
城山三郎の「石狩峠」は、昭和30年代後半の晩秋の層雲峡温泉を舞台にした小説です。
「北海道の秋は早い。十月に入るとまもなく、大雪山に雪が降り始め、十月末ともなれば、木々は競い合って紅葉する」
閑散期のその季節、女中たちはおもいおもいに散ってゆくが、行く当てのない順子は毎年残留組であった。
そんな一日、順子は上川とは反対のバスに乗る。層雲峡の深い谷間を抜けて温根湯から美幌へと道東に向かうバスには、季節外れの安上がりの旅に来たらしい三人連れの学生が居るばかりだった。渓流沿いの道をしばらく走ると、鯱鉾岩、男滝、天城岩などが見え出し、学生たちは大げさな嘆声を上げた。」
二時間あまり走って、バスは石北峠に着いた。順子は、峠の頂きに上る急な坂道を一歩一歩ふみしめて行く。
「石北峠ー北見の国と石狩の国の山々の出会うとところ。非情酷薄の名。二つの国の頭文字を集めただけの峠の名は、人に思案のすきも与えぬほどの峠のきびしさをにじませている。ここは、太古以来、風のみが戦うところ。
人生の風、感傷の風が、呼吸できるところではない」