ベニヤ原生花園ー浜頓別町
文芸評論家山本健吉の「さい果てのお花畠」にベニヤ原生花園の紀行文が入っています。
「町を出てクッチャロ川を渡り、国道238号線を右手にそれて、海浜の砂丘近く車を棄てた。砂丘にはエゾ松やトド松や水 、水松などの疎林がつづいている。表土は笹などが腐敗して出来たポドソル土壌といって、日本唯一の珍しい土質だという。赤松にとっては最高の土質だが、他の植物にとっては最悪の土質だそうだ」
「小雨の中の湿原行は、楽ではなかったが、やはり来てよかったと思った。このお花畑は、花の種類がすこぶる多い。幾条もの砂丘がつづき、中に川のように細長い 水の沼をたたえている。長方形にひろがった330ヘクタールの湿原で、いけども行けども果てしがない。エゾカンゾウやハマナス、ヒオウギアヤメ、エゾニウなどは、誰にも分るが、その外イソツツジ、ヤナギラン、ツルコケモモ、ガンコウランなど、蜻蛉のような形をした黄緑色の可憐な花は、タカネトンボだという。咲き乱れる千草の中を、時々シマアオジがピピーと鳴き過ぎ、ノビタキがチャッチャッとつぶやく。
沼の尽きたところで、海岸の砂丘に出た。低い雲の降りたヤホーツク海に、今日の午前に訪れた神威岬が突き出て、白い波が寄せている。珠文岳、敏音知岳など、北見の山々もうすくかすかに連なっている。砂地に這うようにして生えているのは、湿原と違って、シロヨモギ、ハマボウフウ、ハマエンドウ、カワラナデシコ、ハマニンニクといったところ。ハマニンニクというのは、アイヌが茣蓙に作る植物という」