渡辺喜恵子「初冬の納沙布岬」ー根室市

渡辺 喜恵子(わたなべ きえこ)
1913年(大正2年) – 1997年(平成9年)
  小説家。現在の仙北市生まれ。
昭和6年、現・秋田県立能代北高等学校卒業して上京。昭和10年、画学生・渡辺茂との結婚のため広島へ転地する。
しかし、25歳のときに夫が病死。
昭和17年、亡き夫のことを綴った短編小説集『いのちのあとさき』を刊行し創作活動に入る。戦後、同人誌「明日」「三田文学」に拠って文学活動を行う。
昭和34年、『馬淵川』で第41回直木賞受賞。

 

「納沙布岬は風の名所。オホーツク海から大平洋へ抜ける季節風がすさまじい唸りを立てている。しかし海上は穏やかで、展望台の望遠鏡で覗くと、水晶島が手にとるように見えた。ここの燈台に灯がともされたのは明治5年、以来14、5マイルの珸瑤瑁ごようまい海峡を照らしつづけ、歯舞はぼまい色丹しこたんの島々を海霧から護って来たのだ。
貝殻島かいがらじまの右に見えるのが秋勇留島あきゆり勇留ゆり島。ずっと遠くに見える島影が色丹、その手前が志発しぼつ。ずっと左のあの大きな島が国後くなしりです』と、納沙布岬の人々はどの島を指差しても即座にその名を答えてくれる」