戸川幸夫「オホーツク老人」ー羅臼町
戸川 幸夫(とがわ ゆきお)
1912年(明治45年) – 2004年(平成16年)小説家、児童文学作家。
動物に関する正しい観察・知識を元にして動物文学を確立させました。
噂のみの存在だったイリオモテヤマネコの標本を今泉吉典にもたらし、新種発見に大きく貢献したことでも知られています。
文学と映画の旅 14 (地の涯に生きるものー羅臼町) にもあります。
戸川幸夫が知床半島をはじめて訪れたのは昭和34年のことです。
大雪山の取材旅行時に、知床に番屋といわれる漁業小屋があることを聞きました。
小説「オホーツク老人」は新潮社から昭和35年9月に出版されました。
海が凍結して無人境となる冬季間に留守番をする「村田彦市」さんが主人公となります。
「彦市はことし71歳。人生も終わりにきていて、今度が四度目の越冬である。この赤岩湾には九棟の番屋が建っていたが、断崖が背後も右も左も屏風のように立っていて、開放しているのは前面の蒼黒い海だけだ。そこからしばらく行ったところに、漁師たちから怖れられている知床岬があった。
オホーツク海は秋になると荒れはじめ、羅臼の漁村から一家を挙げてやって来ていた昆布採りの漁師は9月に入ると早々に去ってゆく。次に引き揚げるのは鱒漁師たちである。海は一日一日と荒れ、風に押し飛ばされた波濤は小屋のすぐ前の岩礁に叩きつけられてすさまじい咆哮を続けた。雪は10月の末に来た。//
仲間はミケらの猫だけになった。漁具をネズミから守るために猫が必要とされ、猫に飯を食わせるために人間が必要なのだ。」