澤野 久雄「受胎告知」ー厚岸町

澤野 久雄(さわの ひさお) 1912年 – 1992年
埼玉県浦和町(現・さいたま市)出身の小説家。

早稲田大学国文科卒。都新聞(現東京新聞)に勤務した後、1940年朝日新聞社に入社、49年に同人誌『文学雑誌』に発表した「挽歌」が芥川賞候補になり、川端康成の恩顧を受ける。

四度の芥川賞候補となるが、遂に受賞には至らなかった。52年に「夜の河」が三度目の芥川賞候補で1956年に山本富士子主演で映画化され、これが代表作となった。

澤野久雄には羊蹄山や支笏湖など北海道を描いた小説があります。
「受胎告示」は昭和38年に毎日新聞から出された本で代表作の一つです。
厚岸と東京が主たる舞台で、白鳥が飛来する厚岸のミンク飼育場をなかだちとして、そこに織りなす男女の愛の世界を描いた小説です。

「列車はすでに、広々とした厚岸湖畔を滑っている。湖とはいうが、淡水湖ではない。山にかこまれた水面を西の端で一度しぼって、すぐに厚岸湾へつづく。その咽喉にあたるところ、狭い水域をはさんだ両側に、厚岸町は開けている。
以前は、駅のある北側の町を真龍、南を厚岸と呼んだそうだが、先ごろ合併して一つの町となった。嶮しい海の、潮の干潮による潮流が、蒼黒いうねりを見せる海面を切って、いまはフェリー・ボートが往復している。」

厚岸の旅(厚岸大橋)