江差の繁次郎(民話)

 

江戸時代、江差に実在していたといわれる繁次郎。

国道227号線沿いの「道の駅・江差」には、繁次郎の像がヒョーキンな顔で立っています。

文化年間の生まれで明治の初めに60才くらいで死んだといいます。繁次郎の“とんち”話として伝えられているものの中には、落語のネタや諸国の“とんち”話と共通するものも少なくありませんが江差地方でなければ筋道の合わないような“とんち”話も残されています。

近所の若い者が集まっているところへ、ぶらりとやって来た繁次郎。

「どうだおめえたち、俺と賭けをやる者はいねえか」
「また一杯食わせる気だべ」
「ま、聞けてば。あのな、豆腐一丁ば四十八に切って、一口ずつで食うんだ」「そったらこと、赤ビッキ(赤ん坊)でもできるべせ」
「本当だな。いいか豆腐を四十八に切って、一つずつ食うんだぞ。見事に食った者にァ一升やるが、もし食い切れなかったら俺がそいつから一升もらう」

こんなわけで早速一升の賭けが始まった。豆腐一丁がまな板に上げられると、うやうやしく包丁を取り上げた繁次郎は、まず豆腐の小口を薄く一枚に削り取り、それをコチャコチャと四十七に刻んだ。そして残った大きな豆腐と合わせて四十八を相手に差し出し

「さ、見事に一口ずつでマグラって(食べて)みろ」

どんな大口を開けても最後の一口だけはなんともできず、この賭けは繁次郎の勝ちに決まった。