高見順「いやな感じ」ー根室市

高見順(たかみ・じゅん)

明治40-昭和40(1907-1965)。作家、詩人。福井県出身。本名高間芳雄。
東京帝国大学に進むと左翼芸術同盟に参加し、機関誌『左翼芸術』などに作品を発表。
プロレタリア作家として活動しますが、昭和7年(1932)治安維持法違反の容疑で検挙。
昭和10年“饒舌体”と呼ばれる手法で「故旧忘れ得べき」を著わし、第一回芥川賞候補。晩年は、昭和という時代を描く「激流」「いやな感じ」「大いなる手の影」の連作を構想し、執筆にとりかかりましたが、昭和40年、58歳で亡くなりました。

昭和初期にアナーキストの主人公が愛人をつれて根室に逃避行する高見順の代表作「いやな感じ」の一節です。

「根室の街は海に面した丘陵地にある。その海というのはオホーツク海である。 ながいながいナガハコ(汽車)の旅をつづけて、俺と波子が終着駅の根室についたとき、街は深い雪に埋もれていた。丘陵の上にあるハコネ(駅)から見下ろすと、視界はことごとく雪と氷で蔽われていて、どこまでが陸で、どこからが海か、見当がつかない。ここの海はまるで真水の湖のように凍っていて、千島のほうまでずっと大氷原と化しているかのようだった」