旅の手帳・三浦哲郎ーサロマ湖

三浦哲郎の「旅の手帳」に「流氷が啼いている」が収められています。

「流氷が啼くのをはっきりと聞いたのは、あれはサロマ湖を見にいく途中であった。網走から、能取湖の湖岸を巡って湧別とを結ぶ鉄道と道とが、ほぼ平行して走っている。その鉄道と道とが、壺のような形をした能取湖のふちを巡り終えてオホーツク海の沿岸へ出たところに、常呂というちいさな港がある。
私たちは、その港の外の、おそらく夏は砂丘なのだろう、いまは厚く雪に蔽われているなだらかなスロープを、膝まで雪に漬かりながら海岸まで降りてみた。海岸といっても、そこに砂浜があるわけではない。ちいさな氷山のような流氷がぎっしりと押し寄せているところが、すなわち冬のオホーツク海の波打際だ。

その波打際に佇んでいると、ぎぎぎぎの歯を剥き出しにした流氷の海に、いまにも押し潰されるような気がした。背後の線路を、古風な蒸気機関車がちいさな箱をいくつか率いて、黒い煙を撒き散らしながら通ってゆく。その音も聞こえなくなって、しばらくして、深い静寂の底で、ミシリ、と流氷が歯ぎしりをした。流氷が啼いたのである」

かつて網走と湧別を結ぶ国鉄・湧網線がありました。(平成元年に廃線になっています)

北見市の旅 (旧常呂町のはじまり)