高樹のぶ子「湖底の森」ー鹿追町

高樹 のぶ子(たかぎ のぶこ)    1946年4月9日 –   
 小説家。本名は鶴田信子(つるた のぶこ)。山口県防府市出身。
1968年東京女子大学短期大学部教養科卒業。1971年学生時代から交際していた男性と結婚。74年福岡へ転居、男子を産む。78年自身の恋愛のため離婚し子との接触を禁じられる。
1980年、『その細き道』を『文學界』に発表、小説家デビュー
1984年、『光抱く友よ』で芥川賞。
野間文芸賞、大佛次郎賞、島清恋愛文学賞、芥川賞、朝日賞などの選考委員を務めていた。

然別湖(鹿追町)

「大雪山国立公園は、北は層雲峡を取り込み、南は十勝平野に張り出す勢いで、北海道のほぼ真中に広大な面積を占めて広がっている。
白雲岳、旭岳、十勝岳といった2千メートルを越す高峰が北から南西にかけて連なり、夏でもその白い頂上部を、砂糖菓子のように光らせていた。
これらの峰々から流れ出す澄んだ冷たい水は、富良野や帯広、旭川といった周辺の都市を、北の街らしく清潔に潤すが、平野部に届く前の水は大小無数の滝や名もない湖をつくり、植物や生きものの生命を養っている。

然別湖もこうした湖のひとつである。2万年前の火山の噴火で川がせきとめられて出来たと言われるこの湖は、いまでこそ道路が開通し、湖畔に旅館が二軒も建っているが、大正時代までは誰もその存在に気が付かなかった。
流れ落ちる水の源をたどって八百メートルの高地にまで分け入り、目前にこの美しい湖を発見した先人の喜びと驚きは、どれほど大きかっただろう」