更科源蔵「北海道の旅」ー宗谷本線

JR宗谷本線は旭川を始点として、比布、和寒、剣淵、士別、名寄、美深、音威子府、中川、豊富と続いて終点稚内駅に達する260キロの鉄路です。
更科源蔵の書いた宗谷本線沿線の風景は、的確にとらえており今日にも通用する景色です。

「終戦までは樺太への大動脈として、函館稚内わっかない間を急行がジャンジャン走る重要幹線であったが、樺太がサハリンになってからは斜陽線の傾向を濃くした。

しおかり駅

旭川からしばらく、上川平野の穂波を分けて走る列車が、蘭留らんる、それから山の中の塩狩駅に停まる。天塩と石狩の国境の駅である。こここまで線路に沿って流れる川は南をさしていたが、ここからは流れは逆に北に向かう。天塩川の流れてである。この辺はまだ水田の水が光っている。
名寄なよろ市はその中心に生まれた町で、ここからオホーツク海岸に行く名寄本線(廃線)と、木材の豊かな雨竜うりゅう中山を貫通する深名しんめい線(廃線)とが分かれている。

稲田はそこからまだ見え隠れしながら北に延びて、美深びふかから先は天塩川の流れは次第に大きくなり、人里が次第に狭くなり、こんな山の中にと思うようなところに、木材だけが積んであって、ほとんど人影のない駅がつづく。

咲来さつくる筬島おさしま神路かみじ佐久さくなど、ふと下車してみたいような駅名がつづくが、どこも木材の匂いの強い駅で、山路を歩いていると全身野獣臭い、沿海州のシホテ・アリニの山の中を獲物を求めて歩く、狩人デルスウ・ウザーラのような男に出逢ったりする。このあたりからはたしかに道北だという感じが、ひしひしと肌に感じられてくる」