西野辰吉「昭和民衆史の私」ー初山別村

初山別村・公園

西野辰吉(にしのたつきち)  1916―1999  小説家。
北海道初山別(しょさんべつ)村の貧しい開拓農家生まれ。

このコーナーの『東方の人』で取り上げています。そちらも見てください。

「昭和民衆史の私」は自伝的エッセイで、父岩次郎と母みつが、富山県で夫婦となり北海道へ開拓に入った物語です。

「明治38年、父岩次郎は富山県の貧農の子でした。北海道へ入植したときは富山県から貨物船で小樽に航海していた。日本海を直航したので、陸路の旅ではなかった。後年、母から私は入植当時のことを聞いたのだが、日露戦争のさいちゅうで浮流機雷に触れて遭難する危険があったことから、船は昼間だけのろのろと航行して、夜になると運航を停止した。それで魚津から小樽まで、半月ほどかかっている」

「母の話によると、北海道の開拓民になったのは、じつは徴兵のがれのためだったという。北海道開拓の入植者は召集を免除されるという話が、そのころ流説としてつたわっていて、父は役場へ開拓民に応募する手続きをとったのだった。そして、そのとき結婚したのだが、父も母もおなじ村の貧農の子だった」
岩次郎26歳、みつ20歳、たくわえたなにがしかの金を持ち、米2俵を買って船に積み込んだ。

「小樽で沿岸まわりの船にのりかえ、天塩地方の羽幌に上陸して、入植地初山別にはいった。初山別にいったのは、岩次郎の知人がすでに開拓民として移住していたからである」