辻邦生「時の扉」ー紋別市

辻 邦生(つじ くにお)
1925年(大正14年)- 1999年(平成11年)
小説家、フランス文学者。

東京生まれ。旧制松本高校で北杜夫と出会う。東京大学文学部仏文学科を卒業後、大学院へ進み、学習院大学で非常勤講師を務め1957年(昭和32)より4年間パリ大学に留学。
そのときのパリ体験やイタリア、ギリシア、ドイツ旅行などを通してのヨーロッパ文化の衝撃が小説を書くことの原体験となる。とくにギリシア旅行での美的覚醒は小説への強い啓示になった。61年に帰国し、最初の小説『廻廊(かいろう)にて』(1963)が第4回近代文学賞を受賞。

「時の扉」は1976~77年に「毎日新聞」に連載され「愛とは何か」を鋭く深く問う、傑作長編小説。オホーツクの海に魅せられた作者がイメージした世界で、オホーツク海に近い小さな町が舞台。
その町の中学校教師をしている矢口は、数年前に東京郊外の欅並木がある大学講師をしていたとき、愛を寄せる一人の聴講生を死に追いやった過去がありました。

「東京郊外で大学講師を務める矢口忍。その聴講生・卜部すえの、誠実で奥ゆかしく、はかなげなところに惹かれ恋仲になるが、すえとはまったく違うタイプの女性に心を奪われ、結婚してしまう。
 すえの「最後に、もう一度会いたい」という願いをにべもなく断った翌日、すえが自殺――。以来、矢口は北海道の寒村で中学校の教師になり、自分を罰するためにひたすら禁欲的な生活をしていた。
 しかし、友人の誘いで出掛けたシリアへの旅をきっかけに、矢口の心に変化が生まれ、止まっていた時間が少しずつ動き出す――。」