爪生卓造「流氷」ー網走市

瓜生 卓造(うりゅう たくぞう)

1920年(大正9年)~1982年(昭和57年)。
小説家、随筆家。兵庫県神戸市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。

1978年(昭和52年)「檜原村紀聞」で第29回読売文学賞(随筆・紀行部門)を受賞。

長編小説「流氷」(昭和35年2月初版)の書き出しです。

「網走駅のプラット・フォームにおり立つと、晩秋の風が肌にしみた。オホーツク海を渡る北西風は、もう冬の冷たさであった。」

「俊一は20年前に網走駅におりたことかあったが、駅前の広場も右手に建ちならぶ食堂や土産物店の家並みも未知に近い。自分の記憶が不確かなのか、彼のうちの網走はもっと寒々しいものでなければならなかった。この漁業の町は、網走国定公園に指定されたいま、市も宣伝に熱心のようである。

ハイヤーが天都山ーの坂道を登るにつれ、鬱金色に染まった白樺の丘の向こうに頂近く白雲をつけた秀麗な斜里岳がひときわ高くそそり立っていた。視野は刻刻広まり、斜里岳からさらに東に海別岳、遠音別岳、羅臼岳、硫黄岳、知床岳とそれぞれに立派な風格をそなえたさいはての連峰が見わたされ、岳麓をオホーツク海の荒海が洗っていた。」

天都山から描いた絵があります。

天都山から