支笏湖のアメマス伝説

昔そのむかし、トーカラカムイ(湖造神こぞうしん)は支笏湖しこつこを造り魚を放した。
ある日、湖の出来ぐあいと、魚がどのくらい増えたかを調べるために湖の中に入った。ところが、湖は以外にも深く、海へ入っても濡らしたことのない神様の大事な股間こかんを濡らしてしまった。

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冬の支笏湖(千歳市)

神様はすっかり腹を立ててしまい、湖に放してあった魚を全部つかまえて海へ投げ捨ててしまった。その時、一匹のアメマスだけが岩陰いわかげに隠れていて難をのがれ生き残った。
しかし、一匹だけ生きのびたアメマスは、やがて大化物おおばけものに生長し、湖の主になり悪業あくぎょうの限りとあばれまわった。ある時は、湖に水を飲みにきた鹿や熊を一呑ひとのみにしたり、湖を渡るアイヌの舟を沈めたりした。

これを知ったオアイヌルシクルの神が化物ばけものの大アメマスを退治するため湖に出かけ、魚扠やすで突くことができたが、大アメマスの力が強くて湖の中に引き込まれて死んでしまった。

この神には幼い姉弟きょうだいがいた。
何年か過ぎ、姉は弟に父の無念を話した。話を聞いた弟は、家に伝わっていた金の魚扠やすを持ち出し、支笏湖へ行き大ウメマスを探した。

ある日、大アメマスを発見すると一突ひとつききに突き刺した。陸に引き上げようとしたが、力が強く逆に、父と同じように湖へ引き込まれそうになった。
それから六日六晩むいかむばん争いつづけたが勝負がつかなかった。姉も手伝ったがそれでも負けそうになった時、姉が天に昇った父にすけを求めた。父親も天から駆け降り姉弟を助け、やっとの思いで、大アメマスを引き揚げ退治した。
その大アメマスを細々に切り刻んで湖へ投げ込むと、それが、みんな小さなアメマスとなり、今日までにえたという。

支笏湖の最も深いところは、363メートルもある。

更科源蔵 アイヌ伝説より