イモざしになったクマ

ある男が、山道を通っていて、突然クマに出会い、死んだふりをするひまもなく、逃げだしたが、そのクマは、どこまでも後を追ってくる。その男は、そばにあった手ごろな木に登りはじめた。
ところが、そのクマも、その木に登りはじめたのである。ひょいと下を見ると、クマは、みきに爪をたて、鼻息をあらくして登ってくる。驚いたその男は、なおも、上へ上へと枝をよじ登っていく。少し上がって下を見ると、クマもやっぱり登ってくる。
またひとえだ、またひとえだと、ついに木のてっぺんまで登りつめてしまった。
が、クマもやっぱり登ってくる。
とうとう、その男は、あっというまに、枝とともに、地上に落ちて、そのまま気を失ってしまった。

しばらくして、我にかえったその男が、そっと目を開いてみると、すぐその前に、クマが、でんと腰をついたようなかっこうをして、こっちをにらんでいるのである。

こいつはいけないと、その男は、地面に伏せたまま、死んだふりをしていた。

しばらくして、何事も起こらないので、そっと目を開いてみると、クマはあいかわらず、もとのまま、身動きもしないで、じっとこっちをにらんでいる。
あわてて男は目を閉じた。

こうして何時間か過ぎた。何度か目を開いてみたが、クマはもとのままである。

「どうしたのだろう?  少し動いてみようか」と、手を少し動かしてみたが、クマになんの変化もない。足も少しずつ動かし、そっと立ってみたが、クマはそのままである。よくよくみると、なんと、そのクマは死んでいたのである。

その男が、地上に落ちるといっしょに、クマも木のてっぺんからドスーンと地上に落ちたのであった。が、運悪く、ちょうどその真下に、するどく尖った焼けぼっくいが立っていた。クマは、落ちる自分の重みで、その焼けぼっくいに、尻から頭の先まで、イモざしになってしまったのであった。