クマの

クマの胆は、人の胃にいい薬じゃ。これは、クマの皮よりも値打ちがある。クマの胆について、こんなおかしな話がある。

クマにおそわれた時は、地べたに寝転んで、死んだふりをすればいいと聞かされていた百姓、あるとき山道で、親子づれのクマに出会う。
これはとばかり、百姓、地べたに寝転んでいると、母グマは、のっそりと近づいてきて、顔をのぞきこみ、「はて、これは、死んだふりをしているのじゃな」という。

百姓、低い声で、「死んだ。死んだ」という。
母グマは、「うんうん、うなっているのは、生きているしょうこじゃ。どれ、食ってやろう」

百姓あわてて、「うんうん、うなるのは、胃がいたいのじゃ」という。

母グマ、それを聞き、はっと身を引き、にげごしになり、
「やっぱり、これは死んでるわい」といいながら、小声で子グマにささやいた。

「うっかり死人に近寄るでないぞ。ちかごろ、死んだふりして、クマの胆をねろうやつがおるで」と。