オタストゥン ニシパ の物語

わたしはオタスッ村(※)に住む若者で、たった一人で暮らしていました。山や川に狩りに出かけては、食べ物をとって来ました。
ある日のこと、一人の若い女が、何かおこったようすで泣きながらやって来て、なぜかわたしと一緒に暮らし始めることになりました。

しばらくは、わたしの向かい側に横になっていましたが、そのうちその若い女は起き上がって、食事を作り、わたしに食べさせてくれるようになりました。そうして二人で暮らすことになりました。

ある日、その若い女は、
「あなたは一人暮らしだから、わたしが炊事してあなたに食べさせてあげようと思って来たのです。わたしは、あなたの妻になりましょう」と言いました。

そんなわけで、その若い女と共に寝起きして、暮らすようになり、子どもを一人授かりました。その子がもう乳を飲まなくてもいい年ごろになったとき、またもう一人子どもを授かって、わたしは二人の父親となりました。
わたしは、川へ行っては魚をとり、山へ行ってはクマやシカをとりました。獲物を背負って帰って来ると、妻は出迎えてはわたしをねぎらってくれました。そうして、わたしたちは仲良く毎日毎日を過ごしていたのです。

そんなある日、妻は火をじっと見つめながら考え込んだあげくに、こう言いました。
「実は、わたしは人間ではなく、天の国から降りてきたカッコウの鳥の神なのです。あなたが一人さびしく暮らしているのを見てあわれに思い、人間の女に姿を変えてやって来て、こうして二人の子をもうけたのです。でも、もう天に戻らねばならなくなりました。子どもを一人あなたに残していきますので、大事に育ててくださいね」
妻はこう言いながら火の神へおじぎをすると、女の子を一人連れて外へ出て行きました。二人はヌサ(祭壇)のところへ行って、何か不思議なおまじないをすると、人間からカッコウの姿に変わり、次々と飛んで行ってしまいました。

後に残されたわたしは驚きましたが、「わたしの妻は、人間の女ではなくて、神様であったのか」と思い、飛んで行った方を拝んで、何度も頭を下げました。

しかし、あまりのことだったので、わたしは二~三日体の具合が悪く床にふせっていました。やがて気を取り直し、後に残された男の子に食べるものがなくてはと起き上がって、川岸へ降りては魚をとり、山へ行ってはクマやシカをとる生活に戻っていきました。
こうして日々暮らしているのだと、オタストゥン  ニシパが自分のことを語りました。

※オタスッ村=アイヌのむかし話に出てくる地名。各地のむかし話の中の主人公の出身地がこの名で呼ばれる。