白鳥のかざり玉

あるとき、天をおおっていた大きな布がほころびて大きな穴があいてしまったのです。(ギリヤークの人々は大空はひとつの布でおおわれていると考えていまですね)
毎日、毎日、その穴から強い風が吹き込むのです。(今でいう台風なのでしょう)

一人の若者がその風の穴をふさごうと思いたち、家を出ました。何日歩いたのでしょう。ようやく、その穴までたどりついたのです。そのそばに一軒の家がありました。そこには、とても年をとったおばあさんが、一人で住んでおりました。

風の吹き込む穴を見ますと、その穴から、白鳥が自由に出入りしているのですが、穴が開いたり、閉じたりしているので、はさまれて、死ぬ白鳥もときおりいます。その死んだ白鳥を料理して、おばあさんはくらしていたのでした。若者も、その白鳥料理をごちそうになり、一晩とめてもらうことになりました。

つぎの日、若者は、なんとかして風の穴をふさごうとがんばったのですが、どうにもふさぐことができません。とうとうあきらめて、家へ帰ろることにしました。
ふと、風の穴のふちを見ますと、おどろいたことに、そこには、耳輪に使うかざり玉がたくさんついていたのです。

男は、おみやげに、このかざり玉をもって帰ろうと思い、いそいで袋をつくり、その中につめるだけつめると、いそいで家へ向かったのでした。しかし男は、帰る途中ら、玉をいくつも落としながらきたことに気が付かなかったのです。
家へ帰って、袋をあけてみると、玉はもう少ししか残っていません。

さらに、びっくりしたことには、妻は、もうすっかりおばあさんになってしまっていたことです。
男が自分の顔を鏡に写してみると、頭の毛に白いものがたくさん増えて、黒と白とが同じくらいになってしまっていたということです。

ギリヤークの民話より

※ギリヤーク=シベリアのアムール川近くに住む民族。むかし、オホーツク海沿岸に移り住んでいた。

※白鳥は、冬になるとシベリアから北海道へ渡ってきます。そして、冬の間北海道で過ごした白鳥は春が近づくと、また北へ群れになって飛び去ります。ギリヤークの人々にとって白鳥は「時」を告げる鳥だったのです。また、玉はとってもだいじな宝物だったのです。白鳥も玉も、時間(年月)の過ぎていくことを示しています。