アイヌの祖先伝説

むかし、日高海岸に一艘いっそうの小舟がながれ着いた。その舟は何処どこの国からきたのかわからなかったが、一人の若くて美しい女神めがみが乗っておった。
その小舟は漂れ着いた時、岩にぶつかり壊れてしまったが、舟の中には多くの黄金こがねや、衣類が積んであった。

女神は舟から降り、人家はないかと辺りを探したが、雨露あめつゆしのぐ場所ところさえなかった。仕方なく舟に積んであった食料で時を過ごしころもを頭からかぶり寝ていると、どこからともなく一匹の狼(ホロケウ)がやってきて、女神に近づき、嬉しそうに尾を振り、着物のすそをくわえて、何処かえ連れて行こうとした。

女神は、かれるままについていくと沙流川さるがわの上流の洞穴ほこあな(ブユンチシ)の中に入っていった。それから狼は女神と寝宿ねとまりを一緒にしてまもり、時々山の中へ行ってくると木の実や果物を取ってきて、女神に食べさせたり、また谷川や、清水しみずのある所へも案内して水を飲ませたりもした。

女神もこの狼を頼りに暮らし始め、月日を送っているうちに、いつしか身籠みごもることになって、ちょうど十月十日目に男の子と女の子の二人を産んだ。それからは舟から持ってきた衣類で子供二人の衣類をつくり、優しく強くはぐんだ。

子供達もやがて成長して、この二人の間に子供が産まれ、子孫をつくり、産まれてアイヌの祖先そせんが栄えたといわれている。

更科源蔵 アイヌ伝説より