お札の虫ぼし

こんなハッカの大金を手にして、次々と変なことが起こるうわさが広まったもんだから、ーーおれはそんなはんかくさいことせんぞーーと気ばるのがふえてな。
あるハッカ農家のおっちゃんは、ーー札束ば、うちに置いとけば、焼けたり、とられたりであぶくてしょうがねえ。郵便局にあずけても、もえれば元も子もなくなるちゅうこった。まあ、人にまかせず、おれの体につけとるのがいちばんいい・・ーー

と考えてな。たくさんの札束を古新聞に包んで、それをふろしきにくるんで背中にしょって、その上に着物をきていたのさ。
どろぼうが来たら追いまくってやるべと、鉄砲もにぎって、毎日毎日夜も昼も目をぎらぎらさせているうちに、仕事も手につかんようになってな。

なんしろハッカの金は全部自分だけのかせぎと思っとるだけしまつが悪い。
おっかやんや息子にはさっぱり分け前がこない。そこで二人は相談して、おっちゃんをだましにかかった。

「おっちゃん、年がら年じゅう札を背負っとるとかびが生えんか。たまにおてんとさまにかわかしたらどうじゃ」
「それももっともだ。手伝ってくれるか」
と、一年あまり肌につけっぱなしの札をようやくはなしたとさ。

二人はふろしきをといて、新聞紙をはずしてみると、札束は水気でびっしょりで、べたべたにくっついているんで、豆通しのかなあみの上に一枚一枚はがしながら並べてかわかしたそうだ。そのうちに、

「この分はおれたちのかせぎ分にもらっとくべ」

と、いくらかくすねておいて、あとは知らんぷりして、かわいた札をまた束ねて、「おっちゃん、大事にかかえていなよ」と、背負わせているうちに、札はどんどん減ってしまったという話だ。