よめの手紙は手形一つ

むかしむかし、ある村に百姓夫婦がおったんだと。その百姓はかわいい娘ば、山、二つ三つ越えた隣の村さ嫁にやったんだと。

その娘から、なんぼたってもおとさたねえもんで、親たちゃとっても心配したども、何せこっちも貧乏百姓だもんで、行くにも行けねえんだと。
そんで、気にばしてたら、ちょんどそんな時、越中(富山県)の薬売りが来たんだと。

おっかさんが、「ちょっこし待ってけれ」って、奥さ行って障子紙の切れっばしさ、なんだか字みてえなものを書いてきたんだと。
見たら、バッテンの上に、ちょべっとかぎつけたよな、こんなん「又」が、六つ、七つ書いてあるだけなんだと。

その手紙ば見た娘はな、涙ばこぼして読んだと。
「おまえ、どうして、来ないやら、やないして、来ないやら、少し、来いやれ・・・・」

そして「返事ば書くから持ってってくれ」と言ってな、手のひらさ、すみば真っ黒に塗って、やっぱし障子の切れっぱしの白い紙の上さ、べったりと手形ば一つ押して持たしたんだと。

その手紙ば見たおっかさんは、
「おうおう、娘も、手にすきがねえのかのう」と、その手形ばじーっと見ていたと。

※ すき=すき間のことで、「手にすきがない」とは、ひまがなくて手を離せない。忙してという意味。