斜里しゃり老狐ろうこ

昔、斜里に一匹の歳をとったきつねが住んでおった。老狐はいつも、漁場の蔵の屋根の上で昼寝をしていた。
アイヌの人々は、この老狐を神様としてうやまい、誰も悪戯いたずらをする者はいなかった。
ところがある日、漁場吟味ぎょばぎんみの役人が見廻りにきた時、蔵の屋根で寝ている狐を見つけると、自慢の鉄砲で打ち取ろうとしたので、アイヌ達は驚いて、あれは狐の神様だから、打つのは止めた方がええ。
といって止めたが、役人はいうことをきかず狙いをつけたが、火縄の火が消えてしまった。腹を立てた役人は火を付けなおして、また狙ったが、やはり火は消えてしまった。

ある日、いつものように蔵の屋根で寝ている老狐に忍び寄り棍棒こんぼうでなぐりつけた。狐は急所を打たれ、くるくると廻って屋根を転がり落ちると、パッと一羽の鳥になっていづこかえ飛んでいってしまった。
それを見た役人は急におそろしくなり、家に帰ってしまったが、その晩からは、身の毛のよだつ何物かにおびえるようになった。

それからは、何をしても悪いことが続き、とうとう漁場吟味の役もおろされてしまった。
それから、ある日鉄砲で鳥をうったら、その弾がとんでもない方に飛び、人に当たってしまい、あやうく死罪になるところだったが、相手の傷が思ったより浅かったので許されたということです。
これも老狐のたたりといわれている。

更科源蔵 アイヌの伝説より