比布川ぴっぷがわ地獄穴じごくあな

比布川の上流に川口がある。そこに細長いツッショという山があり、この山に一つの洞穴ほらあながあって、この洞穴は地獄に通じる穴だといい伝えられている。

昔、二人の老人が狩の途中この穴の近くに行くと、一匹のムジナが穴に入っていき、やがて飛び出してきた。その後から一人の見慣れぬ男が追ってきたが、二人を見つけると、あわてて穴の中に消えていった。

不思議に思った老人二人は、穴の中へ入っていくと次第に穴はせまくなりやがてって通れるくらいになったが、そこを通り過ぎると急に明るく広い所に出た。そこは見慣れぬところであったが、人も住んでいて、山も川もあった。

しかし、そこの老人たちは、二人が見えぬらしく犬がしきりに吠えるので、魔物まものがきたのではないかと、火をいぶし、魔除まよけけ払いを始めた。
老人二人は、そこを引き返し戻ろうとすると、急に着物が重くなったのでよく見ると、そでや、すそに沢山の人間がぶらさがっておった。

二人は必死にぶらさがっておる人間を投げ捨て、投げ捨て元の穴からやっと逃げ出してきたが、一人の老人は「わしは、あんなところが好きや住んでみたい」といった。「俺はいやだ」と、もう一人の老人は反対した。

それから間もなく、好きやといった老人は死に、いやだといった老人は、いつまでも長生きした。それ以後、この洞穴を地獄の穴と呼ぶようになった。

更科源蔵 アイヌ伝説より