神居古潭の魔神
神居古潭の石狩川の中に、エモシケシという岩がある。
昔、この地方が泥沼であった時代、魔神ニツネカムイがいた。
ある日、この土地の人間が邪魔になり、皆殺しを企み、神居古潭の山頂から大岩を落とし川の水をせき止めにかかった。これを見ていた山の神の熊は、大急ぎでニツネカムイの転がし落とした大岩を爪で引き割って、水の流れをつくり村を救った。
山に戻った魔神ニツネカムイは、今ごろ村人達は全部溺れ死んだろうと見下ろすと、山の神が岩を割って流れをつくっているのがみえた。
烈火のごとく怒ったニツネカムイは、山を下り、山の神の熊に襲い掛かった。
これを天地創造の神サマイクルカムイの妹が見つけ、空知に行っている兄に知らせた。
サマイクルカムイは駆け戻り、山の神に加勢して、ニツネカムイに切りつけた。二人に一人では分が悪くニツネカムイは、たまりかねて逃げ出したが、途中泥沼に足をとられ、捕かまり首を切られてしまった。
その首は、たちまち大きな岩となり胴体はニツネ(魔神)という二十メートルもある大岩になったという。
その時、切ったサマイクルカムイの太刀先が傍の岩にあたって割れた。その岩がエモシケシ(刀の立つ所)となり、魔神が泥にぬかったと伝えられている三メートルもある足跡が今も二つ残ってます。
更科源蔵 アイヌ伝説より