有珠岳うすだけとどろぼう -虻田あぶた町ー

洞爺湖の近くにある有珠岳は、昔から、たびたび爆発をおこしては、近くに住むコタン(村)の人々を困らせてきました。
これには、次のようないわれが伝えられています。

その昔、十勝地方のあるコタンに、イモシタクルという男がいました。
この男は、小さいころから怠け者で、働くことは大嫌いでした。それで、一人前になってからは、食べ物や着るものにも困りました。
でも、そのたびに、イモシタクルは、よその家にうまく忍び込んで、欲しいものを手に入れてくるのでした。そのことが、少しずつコタンの人びとにもわかってくると、この男は、みんなの嫌われ者になってしまいました。

ある時、イモシタクルは、ちょっとした病気で寝込んでしまいました。普通なら、近所の人たちが見舞いに来て、食べ物を作ってくれたりするのですが、

「やあ、このごろ、イモシタクルの顔を見ないが、どうしたのかな」

「おう、そうか。道理で、近ごろ家のものが無くならなくなったよ。あいつがどこかへ行ってくれたら、もう、コタンの暮らしも安心だな」

といように、誰一人として、食べ物を持って見舞いに行く者がいないので、この男は、次第に体が弱り、とうとう、死んでしまいました。

さて、あの世に行ったイモシタクルは、この世で悪いことばからしていたことが、天の神さまにも嫌われて、真面目だった人なら行けるカムイモシリ(神の国)に入れてもらえません。ついにふてくされたイモシタクルは、

(俺は、いつまでも、カムイモシリに入れてもらえないのでから、またアイヌモシリ(アイヌの国)に戻って、もっと、好き勝手をしてやろう)

と、天の神さまのすきを狙い、こっそりと、この世に逃げてきました。

それからのイモシタクルは、隠れ歩きながらも、どこかに旨いものはないか、立派な宝物を持っている家はないかと、あちらこちらの家々をさぐりながら、ある家の窓から、中をうかがってみました。
すると、旨そうな御馳走の匂いが、鼻につきました。
しーんとした、うす暗い部屋の中に、人の気配はなさそうです。

(しめた。まずここで、腹ごしらえをしていこう)

と、思ったイモシタクルは、窓に尻を乗せ、後ろ向きに入ろうとしました。
ところが、その家の炉端では、おばあさんが大きなへらで、グツグツ煮えるお粥をかき混ぜていたのです。
急に窓の明かりが塞がれて、おばあさんは驚きました。

「なんじゃ。このばけものめ! 」

と、熱い大きなへらで、男の尻を、力いっぱい叩き続けました。普通の客なら礼儀を守って入り口から入るので、人間とは思えなかったのです。

イモシタクルは、その熱さと痛さにこらえきれずに、転げて逃げ出しました。それからというものは、どの家を狙ってもろくなことがありませんでした。
頭から入ろうとすると、燃えさしの薪で殴られたり、足から入ろうとすると、向う脛を叩かれる、というしまつでした。

こうして、イモシタクルがふらふらになりながら、山を越え野を渡って辿り着いたのが、ウスヌプリ(有珠岳)のふもとでした。

一方、天上の神さまは、閉じ込めておいたイモシタクルが、逃げ出したことを知り、かんかんに怒って、この男の行方を追いました。
そうして、またまた、地上で悪さを続けていることがわかると、

「こんなろくでなしは、天上からも、地上からも、消えてしまえ」

と、勢いよく、天の上から神さまの足がのびてきて、イモシタクルを踏みつけました。その力が余って、ウスヌプリの底までひびいたので、山の上がぬけてしまいました。

それ以来、悪者がこの近くに来ると、この山は、爆発するようになったということです。