村上春樹の「羊をめぐる冒険」

ノーベル文学賞候補の常連となっている村上春樹ですが、彼の小説の舞台になったと言われている場所が北海道にあります。

昭和60年に廃線となった美幸線(びこうせん)の終着駅『仁宇布』(にうぷ)という集落で、長編小説『羊をめぐる冒険』に登場する十二滝町が、仁宇布の「十六滝」にピッタリで、建物や周辺の風景なども細かく検証され、ファンの間ではブームになっているといいます。

旧美幸線とは旭川と稚内の中間にある美深(びふか)駅からオホーツクに向けて4駅の鉄路だったところです。仁宇布には松山農場が経営するファームイントントという宿があり、テラスから見る草原と白樺林が小説の世界。毎年「北海道で聞く村上春樹」の草原朗読会があります。

羊をめぐる冒険ツアーも開催され、海外かも来ているようです。

美深町の旅

旭川から国道40号線を北上し、士別~名寄を過ぎると美深町に入ります。JR宗谷線と国道が、町を縦断する形で並行に走っており、美深駅は市街地中央にあります。車で約2時間、稚内までの中間に位置する人口5千人の町です。

更に北上すると町はずれに「道の駅びふか」が見えてきます。焼き立てのパンが人気で、スタンプを押して次の音威子府村を目指すには早すぎます。何故かといえば、道の駅の裏手は朔北の大河「天塩川」が流れ、かつては日本海とオホーツク海を結ぶ交通の要衝地でした。川を渡ると「森林公園びふかアイランド」のキャンプ場とチョウザメ館があります。

4年ほど前の夏でしたがチョウザメ館を見に川を渡りました。驚いたことに広いキャンプ場はテントやキャンピングカーでいっぱい。

よくよく見渡すと、何日も滞在している人たちが見受けられます。私もキャンプ経験があるのでテントの張り方や周りの用具などで滞在日数が長いのが分かります。この時は、道北の主峰函岳に登山で来た人たちだと思いました。

ところが、その後調べてみると彼らは旧美幸線の仁宇布駅巡りを楽しみに来ていたのです。というのは、若者だけでなく年配者や外国の人もおりました。中年の男性が携帯で話しているのを聞いていると、大阪から車で来て会社に電話をしているようでした。北海道のキャンプであれば、こんな山の中でなく、あと2時間も走れば稚内ですし、西に1時間で日本海、東にも1時間でオホーツク海。北海道ならではの魚介類があるのです。

美幸線(びこうせん)は、国鉄が運営していた鉄道で美深駅を起点とした仁宇布駅までの路線です。計画では、美深より仁宇布を経てオホーツク海枝幸町の興浜線北見枝幸駅に至る予定でした。
昭和60年に赤字路線ということで全線廃止。何もないと思われるこの一帯やオホーツク沿岸にも鉄道があったのです。「美」は美深、「幸」は北見枝幸(きたみえさし)から付けたもの。平成10年からトロッコ運行という形で、本物の鉄路を往復10キロでよみがえりました。木陰を走り、滝も手で触れるくらいの所まで行けるようです。トロッコの運転手を希望する人は普通自動車免許が必要ですが、乗車だけの方は必要ありません。大人1500円。