「ロビンソンの末裔」開高健ー大雪山麓

上川町・越路駅逓所跡

開高健の北海道取材作の代表的な作品で「戦後開拓残酷物語」で、軽妙な皮肉を交えて原始生活を生命力豊かに描き出しています。
地域は大雪山麓とありますが、おそらく現在の上川町と思われます。

太平洋戦争終結前後のさ中に、好条件を並べたてられ、無責任きわまる開拓計画にのせられ、上野駅を発ち北海道に入植した開拓移民たちの過酷な自然との苦闘です。十勝の鹿追に入植した「神田日勝」も同じような現実がありました。

 

開拓地に入る際、指導員の久米田は北海道地図を広げて、開拓民は大きなシャツの縫い目に巣食うシラミのようなものだと説明します。

北海道開拓が、大きな川に沿って進められてきた歴史を考えたとき、

「開拓民はシラミです。シラミは縫目につく。開拓民は川につくです。川をさかのぼって土地を開いてきたのが北海道です」

という説明は、非常に分かりやすい説明だと思いました。もっとも

「川のないところに開拓地はないです。縫目のないところにシラミはおらんです」
と、自分たちをシラミに例えられた移民たちは、決して気持ち良いはずがありません。

上野駅で

「改札口をとおるとき、駅長や、知事や、指導員などがずらりとならび、顔をまっ赤にして、ワッワッと両手をあげて万歳を叫びました」

というような高揚感は消え失せて、

「もともと北海道ってのはゴミ箱なんですからね。難民の捨て場所に使ってひらけてきたんですからね。骨を埋めるつもりで北海道にわたる人間なんていやしませんよ」

という列車の中での自虐的な会話が、少しずつ現実味を帯び始めていました。