カワウソの神とショキナ -登別ー
昔、大平洋の東の海に、ショキナという大きなクジラの化け物が住んでいました。ショキナは、漁に来る人間たちを船ごと丸飲みにするので、人間たちに恐れられていました。
このことを知った天上の神は、何とかこのショキナを退治しようと、いろいろな神々を送るのですが、いずれも失敗。終いには、誰も退治しようとする者がいなくなり、ショキナの被害は、ますますひどくなるばかりです。
「誰か、あのショキナを退治して、人間たちを救う勇気のある者はいないのか」
と、天上の神は呼びかけましたが、名乗り出る者は、もう誰ひとりいませんでした。
その時、どこかで、
「ふふん」
と、馬鹿にしたような声が聞えました。驚いて、みんなが振り返ってみると、その声の主は、カワウソの神でした。
「あんな化け物のどこが恐ろしいんだ。みんな、意気地がないんだなあ」
と言って笑ったので、神々は、
「そんなことを言うなら、おまえが行って、退治してこい」
ということになり、カワウソの神は、ショキナ退治に出かけることになりました。このカワウソの神は、たいへんな力が強いのですが、とても忘れっぽいのです。そのことを知っている神々は、心配しながらことの成り行きを見守りました。
天上から降りてきたカワウソの神は、ショキナの前に立ち、しきりにショキナの悪口を言い始めたのです。神々は、いつカワウソの神が刀を抜いて斬りかかるかと、かたずをのんで見ていたのですが、カワウソの神は、いっこうに刀を抜く気配がありません。
むしろ、ますますショキナを怒らせてしまうばかりです。終いには、ショキナの勢いに押され、とうとう陸の近くまで追い詰められました。
さすがのカワウソの神もたまらず、
「おおい、この化け物を退治するんだから、誰か、刀を貸してくれよ」
と、大声を挙げて頼んだのですが、どの神も刀を貸そうとする者はありません。それもそのはず、カワウソの神は、腰に立派な刀をさしているのですから。神々は、何とふざけたことをいうやつだとばかり、じろりと横目で見て、知らん顔です。
「なんだ。おれが人間たちのために、こんなに苦労しているというのに、どいつもこいつも、けちなやつばかりだ」
といいながらも、逃げ続け、とうとう登別の近くに追い詰められた時です。
「おおい、カワウソの神よ。おまえの腰に付けているのは刀じゃないのか。おまえも忘れっぽいやつだな」
と、登別の神が見かねて、教えてくれました。
「あっ、そうだ。俺は立派な刀を持ってきていたんだった」
と、気が付いたカワウソの神は、自分の腰に差した刀を抜き、今にも襲い掛かろうと、大きな口を開けたショキナめがけて振り下ろし、胴から真っ二つに切り裂きました。
ショキナを退治したカワウソの神は、刀のことを教えてくれた登別の神に、ショキナの頭をお礼として置いていきました。
登別川の川口近くに、クジラの頭に似た丘が見られましたが、これはショキナの頭だと言い伝えられています。