カワウソの物語
ーハリピッ ハリピッー 知里真志保「アイヌ文学」より
ハリピッ ハリピッ 川にわなを
ハリピッ ハリピッ つくって
ハリピッ ハリピッ 見まわりに
ハリピッ ハリピッ 行ってみたら
ハリピッ ハリピッ 一本のサケが
ハリピッ ハリピッ かかつていた
空は青空、おれはうきうきしていた。今とれたばかりのサケを水からひきあげると、川上の方から、一人の若者がやってきて、こう言った。
「ひとりの妹を、おれはもっている。それをやるから、そのサケをおれにくれ」
ハリピッ ハリピッ 女と聞いて
ハリピッ ハリピッ おれはうれしくなって
ハリピッ ハリピッ そのサケを
ハリピッ ハリピッ くれてやった
すると、その若者は、ずっと川上の方に行ってから、ふり向いて、こう言った。
「ざまう見ろ、みにくい頭のカワウソやあーい。妹なんぞ、このおれがもっているものか。だましてやったのさ。それを本気にして、ウェ、ウ、ウ、ウ、あははーい」
こんなふざけたことを言ってにげたので、おれは腹をたてて、追っかけた。
追っかけ追っかけしているうちに、道の横に穴があった。
おれは、そこに飛び込んだ。
見ると、一匹のキツネがいて、おれのくれてやったサケの卵を木ばちに入れて、つぶしているではないか。おれは、腹だちまぎれに、そのサケの卵のつぶれたのを、木ばちのままひったくって、キツネの頭から、ぶつかけてやった。
それから、キツネは、あのように赤いのさ。
ーーーとカワウソが物語った。