大鵬とエビとアカエイ
ずっとむかしの話だと。
神恵内の奥の沢に、大鵬が住んでいたと。
羽をひろげて、だあーと、世界をまたにかけて飛んであるいたんだとさ。
そしたら、あんまりでっかいもんだから、どこさ行っても休むところがないんだ。それで休む場所をさがしたんだな。
そしたら、いいあんばいに、二本の高い高い木が見つかったんだと。
大鵬はやれやれと、その木にとまって、羽を休めていたら、
「だれだあー、おれのひげにとまっているのはだけだあーっ。ひげにとまっていいるのはだれだあーつ」
と、どなられたと思ったら、その大鵬はぶっとばされてしまって、地面にたたきつけられてしまったと。
さあ、そのひげの主はなんだと思ったら、それはおどろくなかれ、大きた、大きた、大きたガサエビであったと。ガサエビって、シャコのでっけえやつだぞ。
ガサエビは、「おれは世界一大きい動物だべ」
と、それからのそのそと歩きまわったんだが、どこさ行っても、ねぐらがなくて困りはてたんだと。
そしたら、大きた、大きた、ほら穴が二つ、がばあっと、あいていたんだと。
ゆれやれと、ガサエビはそのほら穴の中に、どぼーんと入って、ねむりこけていたんだな。
そしたら、「だれだあー、おれのはなの穴に入って、ねているやつはだれだあーっ」と、ふーんと、くしゃみしたったとさ。
そしたら、その大きなエビのやろが、べえーんと、ぶっとばされてしまい、ぐわっさり、元の神恵の山のてっぺんまで落ちてきたんだと。そして、ぐわっさり、こしぶちつけてしまってな、エビのこしがまがってしまったと。
エビは今でもこしがまがってるべさ。
その大きた、大きた穴、なんだったらなあ、そりゃアカエイというものの、はなの穴だったとさ。
大鵬をおどろかしたエビ。そのエビがはなの穴にやどがりしたアカエイ。世界じゅうでいちばん大きなものはアカエイなんだぞ・・・。と、おらあ、いつも聞かされて育ってきたんだ。
すもうの大鵬の母親は、おらの同級生だった。それで相撲とりの大鵬は、神恵内の大鵬の話からとって、大鵬って名前くっつけたという話だと。
大きく羽ばたけって、いうんだなあ。
神々が住む土地、神恵内にふさわしい話だな。
大相撲の横綱大鵬の母親は「神恵内村」の出身です。 大鵬幸喜