日本一高い朝飯

あるおっちやんが町の仲買人なかがいにんの所に、ハッカの代金をもらいに行った。
おっちやんは生まれて初めて見る札束さつたばをいくつもいくつも受け取った。どきどきしながら胴巻どうまきの腹から背中までぎっしりとつめこんだと。

おっちゃんが馬の背に乗って夕暮れの町を通ると、料理屋がのきを並べ、三味線の音や、歌いおどる声がして、お祭りのような気分でわいていた。おっちゃんも酒を飲んでさわいでみたかったけど、

ーーこの金がなくなったら大変だーー

と心配して、ぐっとこらえたと。そして、帰り道に馬の上で飲む酒を少しと、子どものみやげだけ買って、村にもどったと。
馬の背での酒は、よいがよく回り、いねむりをしたけれど、馬のほうはなれたもので、暗い山道をまちがわずに自分の馬小屋まで来て、勝手に草を食べてる時、おっちゃんは目をさまし、思わず胴巻に手をやった。

ーーあるある、だいじょうぶだーー ほっとして、家の中に入った。

もう夜ふけだったので、おっかやんも寝てしまっていた。おっちゃんは、生まれて初めて持った札束を次々とランプの下にならべてみた。
そのうちにだんだん心配になってきた。

ーー火事になったらどうしよう。どろぼうが入ったらどうしよう。どこにしまっておいたらいいかな?ーー

持ちつけないものを持ったもんだから、落ち着かない。くまらの下に入れて寝たが高すぎる。ふとんの下に入れてみたけど、体が痛い。起き上がったおっちゃんは、このあいだ買ったばかりのストーブが目についた。

ーーそうだ。金持ちは金庫ちゅうのを持ってるそうだな。うん、このストーブなら、どろぼうも気づくまい。火事にも安全だ。あすの朝は一番に起きて、みんなを驚かせてやろうーーと思ったんだな。
おっちゃんは安心したのと酒のよいで、ぐっすり寝込んでしまった。

翌朝、おっちゃんのふとんの中に、ご飯のたけるにおいがぷーんと入ってきた。とたんにおっちゃんの頭に体じゅうの血が集まったみたいにかあっとなってな、ふとんをふっとばして茶の間にとびこんだ。
見ると、ストーブは真っ赤になって、その上のご飯がまの厚い木ぶたがプーカプカ、ゆげで上がったり下がったりしている。すきまから流れ出た白いしるを、ストーブがこがして、いいにおいをさせてるんだ。おっちゃんはもうめちゃくちゃわめいたさ。

「おーっ、札は、札はどうした! ばかーっ、ばかーっ ・・・・」

おっかやんのほうはわけがわからずぼかーんとったが、ようやく話がわかると、体の血がすーっとなくなったみたいにぺたっとこしをぬかしてしまったと。

この日の朝、おつちゃんの家の飯は日本一高いものについたっちゅう話だ。

開拓のころの話より

北見市の失われた風景(昭和39年)