畑には家は建てられない

繁次郎、ある家をたずねていくと、「いろり」の灰にイモをうずめて、たき火でほっかりやいている。
おいしそうなそのにおいをかいだ繁次郎、のこのこと上がりこみ、いろりの前にどっかとすわりこんで、さて家人にいうには、

「こんど、おれは家を建てることにした。まあ聞いてくれ。土地はだいたいこのぐらいの広さだ」と、いろりの大きさをさして、さて、火ばしをとって灰の上に線をひいて、「ここのところに、まず柱を一本立てる」ブスッと灰の中に火ばしをつきたてると、灰の中のイモにつきささった。

繁次郎、その火ばしを手にとって、「あれ、柱を立てたら、土台にイモがうまっていた。あぶないからとってしまおう」と、これをとってかわをむいて、ムシャ、ムシャー。

「そのつぎに、ここに、柱を立てる」と、火ばしをブスリ。またついてきたイモをあぶないからといって、ムシャ、ムシャ。

さて、「ここにも柱だ」ブスリ。ムシャ、ムシャ。
「ここにも柱だ」「ここにも柱だ」ブスリ、ブスリと、いろりじゅうのイモのうずめてあるところに火ばしをつきたて、イモを全部たべてしまってから、

さて、「せっかく家を建てようとしたが、柱の下にイモがあるのではあぶなくて家が建てられない。ヤーメタ」と言って、口をふきふき出ていった。

梁瀬快二伝